不動産鑑定評価基準には、正常価格、限定価格、特定価格、特殊価格の4つの価格概念があります。通常の鑑定評価では正常価格を求めるケースがほとんどですが、まれに限定価格を評価する場合があります。

限定価格とは

限定価格とは、市場性を有する不動産について、不動産と取得する他の不動産との併合又は不動産の一部を取得する際の分割等に基づき正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することにより、市場が相対的に限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく市場価値を適正に表示する価格をいう。

限定価格を求める場合を例示すれば、次のとおりである。

(1)借地権者が底地の併合を目的とする売買に関連する場合

(2)隣接不動産の併合を目的とする売買に関連する場合

(3)経済合理性に反する不動産の分割を前提とする売買に関連する場合

不動産鑑定評価基準 第5章 第3節

限定価格とは、特定の当事者間においてのみ経済合理性が認められる価格をいいます。

例えば、下図にある、A土地とB土地と併合する場合、併合後の価格は、A土地とB土地それぞれの価格の合計額より高くなると考えられます。なぜなら、A土地は形状が悪く、B土地は規模が小さいため市場性が減退していますが、両者が併合するとそれぞれのデメリットが解消されるからです。

増分価値が発生する一例を示した画像
イメージ図

この場合、A土地の所有者は、B土地との併合を目的として、B土地を実勢価格より多少高い価格で購入しても、経済合理性が認められます。このように、市場価格と乖離するものの、特定の当事者には経済合理性が認められる価格を限定価格といいます。

限定価格の評価の流れ

上のケースでのB土地の評価手順は、A土地・B土地・一体地(A土地とB土地の併合後の土地)の価格を査定し、一体地の価格からA土地・B土地の価格を控除して、併合によって生ずる増分価値を査定し、この増分価値のうちB土地に帰属する配分額をB土地の価格に加算して、限定価格を求めます。

A土地の査定
B土地の査定
一体地(A土地とB土地の併合後の土地)の査定
増分価値の査定(③-(①+②))
④のうちB土地に帰属する配分額を査定
配分額を加算してB土地の限定価格を決定(①+⑤)
B土地の限定価格の求め方

配分額の査定方法

増分価値はそれぞれの土地の寄与により発生することから、配分額の査定においては、それぞれの寄与の程度を分析し検討します。配分方法には面積比、単価比、総額比、買入限度額比による方法等があります。

面積比による方法併合前の各土地の面積の比によって配分する方法
単価比による方法併合前の各土地の単価の比によって配分する方法
総額比による方法併合前の各土地の総額の比によって配分する方法
買入限度額比による方法相手土地を買っても損はないとする各土地の買入限度額比によって配分する方法

鑑定評価では一般的に総額比による方法、買入限度額比による方法が多く用いられています。

A土地がB土地を併合する場合

Bを対象不動産として、増分価値の配分を検証してみます。

ケーススタディ
このケースで考えてみる
①単価②面積③総額(①×②)
A土地70,000円/㎡150㎡10,500,000円
B土地60,000円/㎡50㎡3,000,000円
一体地(併合後)100,000円/㎡200㎡20,000,000円
前提条件(右にスクロールできます)

このケースでは、増分価値は6,500,000円です。(一体地の価格-(A土地の価格+B土地の価格))

総額比による方法

総額比による計算図

借入限度額比による方法

借入限度額による計算図
A土地の買入限度額一体地の価格-B土地の価格
B土地の買入限度額一体地の価格-A土地の価格
買入限度額の計算

配分額に差異が生じる理由

以上のように増分価値は同じでも、適用する手法により配分額(配分率)が異なります。

総額比による方法は、質的要因(単価)と量的要因(面積)の双方を反映していますが、このケースのように総額比が大きい場合には、総額が大きい土地への配分が大きくなり、総額が小さい土地への配分が小さくなります。

一方、買入限度額比による方法は、併合される土地の総額が小さいと、その土地へ配分率が大きくなります。

このような特性を考慮のうえ、配分額を決定し、限定価格を求めます。

その他の価格概念

正常価格

鑑定評価において求める価格のほとんどが、正常価格です。一般の取引当事者にとって妥当する客観的交換価値です。

不動産の鑑定評価によって求める価格は、基本的には正常価格であるが、鑑定評価の依頼目的に対応した条件により限定価格、特定価格又は特殊価格を求める場合があるので、依頼目的に対応した条件を踏まえて価格の種類を適切に判断し、明確にすべきである。なお、評価目的に応じ、特定価格として求めなければならない場合があることに留意しなければならない。

1.正常価格

正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう。この場合において、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場とは、以下の条件を満たす市場をいう。

(1)市場参加者が自由意思に基づいて市場に参加し、参入、退出が自由であること。なお、ここでいう市場参加者は、自己の利益を最大化するため次のような要件を満たすとともに、慎重かつ賢明に予測し、行動するものとする。

①売り急ぎ、買い進み等をもたらす特別な動機のないこと。

②対象不動産及び対象不動産が属する市場について取引を成立させるために必要となる通常の知識や情報を得ていること。

③取引を成立させるために通常必要と認められる労力、費用を費やしていること。

④対象不動産の最有効使用を前提とした価値判断を行うこと。

⑤買主が通常の資金調達能力を有していること。

(2)取引形態が、市場参加者が制約されたり、売り急ぎ、買い進み等を誘引したりするような特別なものではないこと。

(3)対象不動産が相当の期間市場に公開されていること。

不動産鑑定評価基準 第5章 第3節

(1)正常価格について  現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件について

①買主が通常の資金調達能力を有していることについて通常の資金調達能力とは、買主が対象不動産の取得に当たって、市場における標準的な借入条件(借入比率、金利、借入期間等)の下での借り入れと自己資金とによって資金調達を行うことができる能力をいう。

②対象不動産が相当の期間市場に公開されていることについて

相当の期間とは、対象不動産の取得に際し必要となる情報が公開され、需要者層に十分浸透するまでの期間をいう。なお、相当の期間とは、価格時点における不動産市場の需給動向、対象不動産の種類、性格等によって異なることに留意すべきである。

また、公開されていることとは、価格時点において既に市場で公開されていた状況を想定することをいう(価格時点以降売買成立時まで公開されることではないことに留意すべきである。)。

不動産鑑定評価基準運用上の留意事項

特定価格

特定価格とは、市場性を有する不動産について、法令等による社会的要請を背景とする鑑定評価目的の下で、正常価格の前提となる諸条件を満たさないことにより正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することとなる場合における不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう。

(1)各論第 3 章第 1 節に規定する証券化対象不動産に係る鑑定評価目的の下で、投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求める場合

(2)民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、早期売却を前提とした価格を求める場合

(3)会社更生法又は民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、事業の継続を前提とした価格を求める場合

不動産鑑定評価基準 第5章 第3節

①法令等について

法令等とは、法律、政令、内閣府令、省令、その他国の行政機関の規則、告示、訓令、通達等のほか、最高裁判所規則、条例、地方公共団体の規則、不動産鑑定士等の団体が定める指針(不動産の鑑定評価に関する法律第48条の規定により国土交通大臣に届出をした社団又は財団が定める指針であって国土交通省との協議を経て当該団体において合意形成がなされたものをいう。以下同じ。)、企業会計の基準、監査基準をいう。

②特定価格を求める場合の例について

特定価格を求める場合の例として掲げられているものについて、それぞれの場合ごとに特定価格を求める理由は次のとおりである。

ア各論第3章第1節に規定する証券化対象不動産に係る鑑定評価目的の下で、投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求める場合

この場合は、投資法人、投資信託又は特定目的会社等(以下「投資法人等」という。)の投資対象となる資産(以下「投資対象資産」という。)としての不動産の取得時又は保有期間中の価格として投資家に開示することを目的に、投資家保護の観点から対象不動産の収益力を適切に反映する収益価格に基づいた投資採算価値を求める必要がある。

投資対象資産としての不動産の取得時又は保有期間中の価格を求める鑑定評価については、上記鑑定評価目的の下で、資産流動化計画等により投資家に開示される対象不動産の運用方法を所与とするが、その運用方法による使用が対象不動産の最有効使用と異なることとなる場合には特定価格として求めなければならない。なお、投資法人等が投資対象資産を譲渡するときに依頼される鑑定評価で求める価格は正常価格として求めることに留意する必要がある。

イ民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、早期売却を前提とした価格を求める場合

この場合は、民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、財産を処分するものとしての価格を求めるものであり、対象不動産の種類、性格、所在地域の実情に応じ、早期の処分可能性を考慮した適正な処分価格として求める必要がある。鑑定評価に際しては、通常の市場公開期間より短い期間で売却されることを前提とするものであるため、早期売却による減価が生じないと判断される特段の事情がない限り特定価格として求めなければならない。

ウ会社更生法又は民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、事業の継続を前提とした価格を求める場合

この場合は、会社更生法又は民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、現状の事業が継続されるものとして当該事業の拘束下にあることを前提とする価格を求めるものである。

鑑定評価に際しては、上記鑑定評価目的の下で、対象不動産の利用現況を所与とすることにより、前提とする使用が対象不動産の最有効使用と異なることとなる場合には特定価格として求めなければならない。

不動産鑑定評価基準運用上の留意事項

特殊価格

特殊価格とは、文化財等の一般的に市場性を有しない不動産について、その利用現況等を前提とした不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう。

特殊価格を求める場合を例示すれば、文化財の指定を受けた建造物、宗教建築物又は現況による管理を継続する公共公益施設の用に供されている不動産について、その保存等に主眼をおいた鑑定評価を行う場合である。

不動産鑑定評価基準 第5章 第3節