4 路線価等は、1月1日を評価時点として、1年間の地価変動などを考慮し、地価公示価格等を基にした価格(時価)の80%程度を目途に評価しています。

国税庁

相続税路線価は地価公示価格の8割水準で設定されています。

8割で設定された根拠として、相続税路線価は相続税評価において1年間適用されるものであることから、地価の変動に対応できる評価上の安全性等が考慮されている、といわれていますが、8割に設定された背景にはバブル景気の地価高騰がありました。

相続税評価の評価割合の変遷

1987年(昭和62年)

1987年(昭和62年)1月26日

狂乱地価〔中略〕

国税庁が21日に発表した最高路線価は全国平均で19.6%、東京をはじめとする上位10都市の平均では50.7%の大幅な上昇となっている。〔中略〕といっても都心商業地区の実勢価格はこんなものではなく、この3倍以上というのが業界の常識となっていることからしても、実際の上昇率はこれを大きく上回ると見ていいだろう。

住宅・不動産業 激動の軌跡50年~列島改造からバブル、再び五輪へ~ 株式会社不動産経済研究所 p215

昭和62年当時、実勢価格は相続税路線価の3倍以上だということが業界の常識だったということで、当時の東京の都心商業地区では路線価は3割程度もしくはそれ未満の水準だったようです。

1990年(平成2年)

1990年(平成2年)2月13日

バブル波及〔中略〕

こうした東京で派生した土地高騰に伴う「含み」としての余資・余力=東京マネーは、例外なく大阪を中心とした近畿圏や名古屋を中心とした中部圏、北九州・福岡を中心とした九州圏、広島を中心とした中国圏、札幌を中心とした北海道、あるいは仙台を中心とした東北圏へと流れているように思われる。

住宅・不動産業 激動の軌跡50年~列島改造からバブル、再び五輪へ~ 株式会社不動産経済研究所 p245-246

平成2年当時、バブルの影響で土地価格の高騰が地方へと波及しているという記事です。地価高騰によって、地方でも相続税路線価の実勢価格に対する割合は低下したのでしょうか(下記で検証しました)。

1991年 平成3年の税制改正

第 8 節 土地税制

1  政策決定過程

第2章で述べたように、バブルによる地価高騰に対処して、平成3年度税制改正ではこれまでの土地税制の在り方を大きく転換する「土地税制改革」が実施された。すなわち、土地の資産としての有利性縮減が土地問題の解決に必要との観点から、土地の保有・譲渡・取得に対する全面的な課税強化が行われた。具体的には国税の新税として地価税を導入し保有税を強化、更に、これまでは長期保有の土地を中心に軽減されてきた土地譲渡益課税の税率が一転して引き上げられた。これ以外にも、固定資産税や相続税の評価額引上げ、特別土地保有税の強化、更には農地の課税強化等が実施された。

平成財政史 財務省財務総合政策研究所 第4巻第3章p748

1990年10月に政府税制調査会の「平成3年の税正改革」により、固定資産税・都市計画税および相続税の負担の強化(土地の評価水準の引き上げ)、特別土地保有税の強化、個人および法人所有地の長期譲渡所得課税の重課、前記の宅地並み課税の実施などが決定されたうえ、新たに「地価税」が創設された(1991年5月の「地価税法」、92年1月1日から実施)。

日本不動産業史 財団法人名古屋大学出版会 p319

平成3年の税制改正によって相続税路線価は地価公示価格の7割水準に引き上げられました

バブルによる急激な地価上昇で、大都市に住むサラリーマンは持ち家の所有が困難となり、土地を持つ者と持たざる者の間で資産格差が拡大するなど、様々な社会問題を引き起こしました。そこで、地価引下げを目的として、地価税導入や譲渡益課税強化を始めとする土地税制改革が平成3年度税制改正で行われました。  

平成に入ってからも地価高騰は依然続いたが、その原因の一つに、相続税における土地評価が低いことが挙げられた。すなわち、土地の評価である路線価は公示地価の7割を目途としたが、公示地価自体が時価の7割のため、路線価は時価の5割(0.7×0.7)にとどまり、土地は預貯金などと比べると有利であることが知られていた。しかも当時、路線価は公示地価の6割を切るケースも多く、こうした有利性が土地の仮需要(実需というよりは、相続税対策のための需要)を生み出し、地価を高騰させる原因の一つとされた。また、農地に対して認められる相続税の特例が、都市における農地の宅地転換を遅らせ、宅地供給を不足させているとも言われた。

平成財政史 財務省財務総合政策研究所 第4巻第2章p521

地価の高騰には様々な要因がありましたが、その一つに相続税がありました。今も、相続税対策としてアパート・マンション等の収益物件に資産を組み替える資産家の方は多いですが、当時は、地価公示が時価より相当低い水準であったことから(場所によっては現代も変わらない?)、相続税対策として有効に働いたため、そのための需要を誘引したんですね。

1992年 平成4年の税制改正

イ 昨年10月の「土地税制のあり方についての基本答申」(以下「基本答申」という。)において、当調査会は、土地税制改革の一環として、相続税に関し次のような指摘を行ったところである。

(イ)土地の相続税評価の評価時点については、できるだけ直近に近づける考え方から地価公示価格の評定日である当年の1月1日に合わせていく必要がある。

(ロ)土地の相続税評価については、現在、地価公示価格水準の70 % (評価割合)を目途として行われているが, こうしたことが結果として金融資産等他の資産に比べ土地の有利性を高め,かえって相続税課税上の歪みや節税を目的とする不要不急の土地需要を招来させている。この問題に応えるためには土地の評価割合をある程度引き上げていく必要がある。

(ハ)以上の考え方で土地の相続税評価の適正化を図る場合には実質的な相続税負担の増加を伴うこととなるので、課税最低限の引上げや税率の区分の幅の拡大等による負担軽減を行う必要がある。

ロ このような指摘を踏まえ、国税庁は、土地の相続税評価に関し地価公示価格を基準として評定するとの考え方に立って、平成4年分の評価から、㋑評価時点をこれまでの前年7月1日から地価公示価格の評価時点である当年1月1 日に変更するとともに, ㋺評価割合を地価公示価格水準の80 %程度に引き上げることによりその適正化を図ることとしその旨、当調査会に報告がなされた。

ハ そもそも相続税は、個人が相続により取得するあらゆる財産に対して負担を求める税であり、相続財産間の税負担のバランスを確保することが重要である。平成4年から実施される土地の相続税評価の適正化は、このような観点を踏まえ、金融資産に比べ土地が有利になるという相続税課税上の歪みを是正し土地の資産としての有利性を縮減することにその眼目があるものであり、相続税の増収を意図するものではない。このため、土地税制改革の一環として土地評価の適正化が行われる結果、全体として相続税負担が増加することのないよう、基本答申で指摘したように、相続税の負担の調整を行うことが必要になるものと考えられる。

平成4年度の税制改正に関する答申 税制調査会 p3-4

相続税路線価が地価公示価格の7割水準に引き上げられた翌年、平成4年には地価公示価格の8割水準に引き上げられ、あわせて評価時点をこれまでの7月1日から地価公示と同じ評価時点である1月1日に変更されました。

また、相続税の評価割合が引き上げられるのは、相続税評価が適正に行われること等による土地価格の鎮静化を目的とするものであり、税額の増収を目的とするものではないと述べられています。

このように相続税路線価が地価公示価格の8割水準となった背景にはバブル期の地価上昇がありました。

相続税路線価の実際の評価割合を調べてみた

当社(宮城県仙台市泉区)近傍にある公示地の公示価格と相続税路線価の価格割合を「昭和・平成バブル期・令和」で比較してみました。

昭和55年

昭和55年の相続税路線価の画像
昭和55年の地価公示の公示価格の画像

平成2年

平成2年の路線価の画像
平成2年の地価公示の公示価格の画像

令和3年

令和3年の路線価の画像
令和3年の地価公示の公示価格の画像

まとめ

番号公示価格(A)路線価(B)割合(B÷A)
昭和55年泉5-254,900円/㎡33,000円/㎡60.1%
平成2年仙台泉7155,000円/㎡67,000円/㎡43.2%
令和3年仙台泉798,500円/㎡77,000円/㎡78.2%
昭和55年・平成2年・令和3年の公示価格と路線価の割合

こうしてみると、現在の相続税路線価は公示価格の8割水準、昔は、特にバブル期は路線価の割合がかなり低かったことがわかりますね。

ちなみに、相続税路線価と地価公示、ともに不動産鑑定士による鑑定評価がベースとなっており、土地基本法第21条に基づく土地基本方針では、「不動産の鑑定評価の専門家の存在自体が、不動産市場を支えるインフラ」と記されています。