不動産を売却・購入する際、適正な価格を知るために行われるのが「不動産鑑定評価」と「不動産会社による査定」です。どちらも不動産の価格を見極めるために重要ですが、実際にはそれぞれ目的や方法が異なります。本記事では、不動産鑑定評価と不動産会社の査定の違いや、それぞれのメリット・デメリットを解説します。また、不動産鑑定士が使う3つの評価手法についても紹介し、どちらを選ぶべきかの参考にしていただければと思います。

1. 不動産鑑定評価と不動産会社の査定の違い

不動産鑑定評価とは?

不動産鑑定評価は、不動産鑑定士という国家資格を持った専門家が、法律に基づいて不動産の価値を公正・客観的に評価するものです。評価は「取引事例比較法」「収益還元法」「原価法」といったさまざまな手法を駆使して行われ、最終的に評価額を「不動産鑑定評価書」としてまとめます。この評価書は、売買契約、相続、贈与、裁判などの公的な場面で公式な証拠資料として使われます。

特徴:

  • 国家資格を持つ鑑定士が行うため、信頼性が高い。
  • 法律に基づいた評価手法を用いる。
  • 価格の適正性を証明するため、公的な場面でも使用できる。

不動産会社による査定とは?

不動産会社の査定は、売主の依頼を受けて不動産仲介会社が物件の市場価格を見積もるものです。主に周辺の取引事例や市場の需要などを参考にし、現時点での売却価格の目安を提示します。査定価格をもとに、売主は仲介会社と媒介契約を結び、物件を市場に出すことが一般的です。

特徴:

  • 不動産会社の経験や知識をもとに査定する。
  • 市場の動向や周辺の売却事例を重視する。
  • 買主との交渉次第で価格が変動する可能性がある。

2. メリット・デメリットを比較

不動産鑑定評価不動産会社の査定
メリット公正で信頼性のある評価。公的な場面でも利用可能。売却を急ぐ際、現時点での市場価格を迅速に把握できる。
デメリット費用と時間がかかる。通常は数十万円の費用が必要。不動産会社の意向に左右され、価格が客観的でない場合もある。
利用シーン相続や贈与、裁判、融資の担保評価など公的手続き。売却を検討しているが、価格の目安を知りたいとき。

3. 不動産鑑定士が用いる3つの評価手法

不動産鑑定士が行う不動産鑑定評価には、主に3つの評価手法があります。これらの手法は、物件の特性や状況に応じて使い分けられ、最終的な評価額を決定する際の根拠となります。

1) 取引事例比較法

概要:
取引事例比較法は、評価対象の不動産と似た条件の不動産が、過去にどのくらいの価格で取引されたかを参考にして価格を決定する方法です。周辺エリアでの最近の取引事例を調査し、対象物件との違い(立地、規模、状態など)を考慮して価格を算出します。

適用されるケース:

  • 一戸建て住宅やマンション、土地などの一般的な不動産の評価に適しています。特に、周辺に類似の取引事例が多い場合に効果的です。

メリット:

  • 市場価格に近い現実的な価格を算出できる。

2) 収益還元法

概要:
収益還元法は、対象物件が生み出す将来の収益(賃料収入など)に基づいて価格を算出する方法です。物件の収益性を考慮し、将来の収益を現在価値に還元して評価額を決定します。主に、賃貸マンションや商業施設など、収益を目的とした不動産の評価に使われます。

適用されるケース:

  • 賃貸マンションやオフィスビル、商業施設などの収益物件の評価に適しています。

メリット:

  • 物件の収益力を考慮するため、投資判断に役立つ。

3) 原価法

概要:
原価法は、対象物件の再調達にかかる費用(建設費など)を基に価格を算出する方法です。具体的には、建物の新築時の価格から経年劣化や修繕費などを差し引いて現在の価格を評価します。土地については、土地の造成費などを考慮して価格を見積もります。

適用されるケース:

  • 新築の建物や、特殊な用途の建物(工場、倉庫など)の評価に適しています。

メリット:

  • 建築費をベースに評価するため、建物の構造や状態を反映した価格を出せる。

4. どちらを選ぶべきか?

不動産鑑定評価と不動産会社による査定のどちらを選ぶべきかは、目的や状況により異なります。

  • 公正で信頼性のある価格が必要な場合:
    相続や贈与、裁判などの公的な手続きで価格を証明したいときは、不動産鑑定士による不動産鑑定評価が適しています。不動産鑑定評価書は公式な文書として利用でき、価格の妥当性を示す強い根拠となります。
  • 現時点での売却価格の目安を知りたい場合:
    不動産会社による査定は、市場の動向に基づいて迅速に価格を出してくれるため、売却を急いでいる場合や、とりあえず今の価格を知りたいという場合に適しています。
  • 収益物件の購入・売却を検討する場合:
    賃貸マンションや商業施設などの収益物件では、収益還元法を用いた不動産鑑定評価が有効です。収益性をしっかりと評価してもらうことで、投資判断に役立ちます。

まとめ

不動産の価格を知る方法には、「不動産鑑定評価」と「不動産会社の査定」の2つがあります。それぞれの違いを理解し、目的や状況に応じてどちらを選ぶかを決めることが大切です。公正な評価を必要とする場合は不動産鑑定士による不動産鑑定評価を、売却の目安を知りたいときには不動産会社の査定を利用しましょう。専門家のアドバイスを受けながら、最適な方法で不動産の価値を見極めていきましょう。